合を折って来ました。帰って御覧なさい、そりゃ綺麗《きれい》です。母の部屋へも、先生の床の間へも、ちゃんと活《い》けるように言って来ました。」
「はあ、それは難有《ありがた》い。朝なんざ崖《がけ》に湧《わ》く雲の中にちらちら燃えるようなのが見えて、もみじに朝霧がかかったという工合でいて、何となく高峰《たかね》の花という感じがしたのに、賢君の丹精で、机の上に活かったのは感謝する。
 早く行って拝見しよう、……が、また誰か、台所の方で、私の帰るのを待っているものはなかったですか。」
 と小鼻の左右の線を深く、微笑を含んで少年を。
 顔を見合わせて此方《こなた》も笑い、
「はははは、松が大層待っていました。先生のお肴《さかな》を頂こうと思って、お午飯《ひる》も控えたって言っていましたっけ。」
「それだ。なかなか人が悪い。」広い額に手を加える。
「それに、母も、先生。お土産を楽しみにして、お腹をすかして帰るからって、言づけをしたそうです。」
「益々《ますます》恐縮。はあ、で、奥さんはどこかへお出かけで。」
「銑さんが一所だそうです。」
「そうすると、その連《つれ》の人も、同じく土産を待つ方なんだ
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