と落ちて、毛虫が頸筋《くびすじ》へ入ったとすると、叔母さん、どっちが厭な心持だと思います。」
「沢山よ、銑さん、私はもう、」
「いえ、まあ、どっちが気味が悪いんですね。」
「そりゃ、だって、そうねえ、どっちがどっちとも言えませんね。」
「そら御覧なさい。」
 説き得て可《よ》しと思える状《さま》して、
「叔母さんは、その婆を、妖物か何ぞのように大騒ぎを遣《や》るけれど、気味の悪い、厭な感じ。」
 感じ、と声に力を入れて、
「感じというと、何だか先生の仮声《こわいろ》のようですね。」
「気楽なことをおっしゃいよ!」
「だって、そうじゃありませんか、その気味の悪い、厭な感じ、」
「でも先生は、工合《ぐあい》の可《い》いとか、妙なとか、おもしろい感じッて事は、お言いなさるけれど、気味の悪いだの、厭な感じだのッて、そんな事は、めったにお言いなさることはありません。」
「しかしですね、詰《つま》らない婆を見て、震えるほど恐《こわ》がった、叔母さんの風《ふう》ッたら……工合の可《い》い、妙な、おもしろい感じがする、と言ったら、叔母さんは怒るでしょう。」
「当然《あたりまえ》ですわ、貴郎《あなた》。
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