嬉しそうに、少年の肩にかけて、見直して呼吸《いき》をついて、
「銑さん、お止《よ》しなさいお止しなさい、気味が悪いから、ね、お止しなさい。」
とさも一生懸命。圧《おさ》えぬばかりに引留めて、
「あんなものは、今頃何に化《な》っているか分りませんよ、よう、ですから、銑さん。」
「じゃ止します、止しますがね。」
少年は余りの事に、
「ははははは、何だか妖物《ばけもの》ででもあるようだ。」と半ば呟《つぶや》いて、また笑った。
「私は妖物としか考えないの、まさか居ようとは思われないけれど。」
「妖物ですとも、妖物ですがね、そのくなくなした処や、天窓《あたま》で歩行《ある》きそうにする処から、黄色く※[#「亠/(田+久)」、200−7]《うね》った処なんぞ、何の事はない婆《ばば》の毛虫だ。毛虫の婆《ばあ》さんです。」
「厭《いや》ですことねえ。」と身ぶるいする。
「何もそんなに、気味を悪がるには当らないじゃありませんか。その婆に手を握られたのと、もしか樹の上から、」
と上を見る。藪《やぶ》は尽きて高い石垣、榎《えのき》が空にかぶさって、浴衣に薄き日の光、二人は月夜を行《ゆ》く姿。
「ぽたり
前へ
次へ
全96ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング