ふらふらになりました。
夢中で二三|間《げん》駈《か》け出すとね、ちゃらんと音がしたので、またハッと思いましたよ。お銭《あし》を落したのが先方《さき》へ聞えやしまいかと思って。
何でも一大事のように返した剰銭《つり》なんですもの、落したのを知っては追っかけて来かねやしません。銑さん、まあ、何てこッてしょう、どうした婆さんでしょうねえ。」
されば叔母上の宣《のたま》うごとし。年紀《とし》七十《ななそじ》あまりの、髪の真白《まっしろ》な、顔の扁《ひらた》い、年紀の割に皺《しわ》の少い、色の黄な、耳の遠い、身体《からだ》の臭《にお》う、骨の軟かそうな、挙動《ふるまい》のくなくなした、なおその言《ことば》に従えば、金色《こんじき》に目の光る嫗《おうな》とより、銑太郎は他に答うる術《すべ》を知らなかった。
ただその、早附木《マッチ》一つ買い取るのに、半時ばかり経《た》った仔細《しさい》が知れて、疑《うたがい》はさらりとなくなったばかりであるから、気の毒らしい、と自分で思うほど一向な暢気《のんき》。
「早附木は? 叔母さん。」と魅せられたものの背中を一つ、トンと打つようなのを唐突《だしぬけ
前へ
次へ
全96ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング