吐息をついた。
「婆《ばあ》さんがね、ああ。」
(御新姐様や、御身《おみ》ア、すいたらしい人じゃでの、安く、なかまの値で進ぜるぞい。)ッて、皺枯《しわが》れた声でそう云うとね、ぶんと頭へ響いたんです。
 そして、すいたらしいッてね、私の手首を熟《じっ》と握って、真黄色《まっきいろ》な、平《ひらっ》たい、小さな顔を振上げて、じろじろと見詰めたの。
 その握った手の冷たい事ッたら、まるで氷のようじゃありませんか。そして目がね、黄金目《きんめ》なんです。
 光ったわ! 貴郎《あなた》。
 キラキラと、その凄《すご》かった事。」
 とばかりで重そうな頭《つむり》を上げて、俄《にわ》かに黒雲や起ると思う、憂慮《きづか》わしげに仰いで視《なが》めた。空ざまに目も恍惚《うっとり》、紐《ひも》を結《ゆわ》えた頤《おとがい》の震うが見えたり。
「心持でしょう。」
「いいえ、じろりと見られた時は、その目の光で私の顔が黄色になったかと思うくらいでしたよ。灯《あかり》に近いと、赤くほてるような気がするのと同一《おんなじ》に。
 もう私、二条《ふたすじ》針を刺されたように、背中の両方から悚然《ぞっ》として、足も
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