いから、包を破いて、自分で一つだけ取って、ああ、厄落し、と出よう、とすると、しっかりこの、」
 と片手を下に、袖《そで》をかさねた袂《たもと》を揺《ゆす》ったが、気味悪そうに、胸をかわして密《そっ》と払い、
「袂をつかまえたのに、引張られて動けないじゃありませんか。」
「かさねがさね、成程、はあ、それから、」

       五

「私ゃ、銑さん、どうしようかと思ったんです。
 何にも云わないで、ぐんぐん引張って、かぶりを掉《ふ》るから、大方、剰銭《つり》を寄越《よこ》そうというんでしょうと思って、留りますとね。
 やッと安心したように手を放して、それから向う向きになって、緡《さし》から穴のあいたのを一つ一つ。
 それがまたしばらくなの。
 私の手を引張るようにして、掌《てのひら》へ呉《く》れました。
 ひやりとしたけれど、そればかりなら可《よ》かったのに。
(御新姐様《ごしんぞさま》や)」
 と浦子の声、異様に震えて聞えたので、
「ええ、その婆《ばば》が、」
「あれ、銑さん、聞えますよ。」と、一歩《ひとあし》いそがわしく、ぴったり寄添う。
「その婆が、云ったんですか。」
 夫人はまた
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