》な心持がしたんですからね、買わずと可《い》いから、そのまま店を出ようと思うと、またそう行《ゆ》かなくなりましたわ。
弱るじゃありませんか、婆さんがね、けだるそうに腰を伸ばして、耳を、私の顔の傍《そば》へ横向けに差しつけたんです。
ぷんと臭《にお》ったの。何とも言えない、きなッくさいような、醤油《おしたじ》の焦げるような、厭な臭《におい》よ。」
「や、そりゃ困りましたね。」と、これを聞いて少年も顰《ひそ》んだのである。
「早附木を下さい。
(はあ?)
(早附木よ、お婆さん。)
(はあ?)
はあッて云うきりなの。目を眠って、口を開けてさ、臭うでしょう。
(早附木、)ッて私は、まったくよ。銑さん、泣きたくなったの。
ただもう遁《に》げ出したくッてね、そこいら※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》すけれど、貴下《あなた》の姿も見えなかったんですもの。
はあ、長い間よ。
それでもようよう聞えたと見えてね、口をむぐむぐとさして合点《がってん》々々をしたから、また手間を取らないようにと、直ぐにね、銅貨を一つ渡してやると、しばらくして、早附木を一ダース。
そんなには要らな
前へ
次へ
全96ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング