ほんとうの電話かと思っていた。」
「おお。」
と目を円くして、きょろりと視《み》て、
「ほんとの電話ですがね。どこか間違ったとこでもあるのかよ。」
「いや、相済まん、……間違ったのは私の方だ。――成程これで呼ぶんだな。――分りました。」
「立派な仕掛《しかけ》だろがねえ。」
「立派な仕掛だ。」
「北国一だろ。」
――それ、そこで言って、ひょいひょい浮足《うきあし》で出て行《ゆ》く処を、背後《うしろ》から呼んで、一銚子を誂えた。
「可《い》いのを頼むよ。」
と追掛けに言うと、
「分った、分った。」
と振り向いて合点《がってん》々々をして、
「北国一。」
と屏風の陰で腰を振って、ひょいと出た。――その北国一を、ここでまた聞いたのであった。
二
「まあ、御飯をかえなさいよ。」
「ああ……御飯もいまかえようが……」
さて客は、いまので話の口が解《ほど》けたと思うらしい面色《おももち》して、中休みに猪口《ちょく》の酒を一口した。……
「……姐《ねえ》さん、ここの前を右へ出て、大《おおき》な絵はがき屋だの、小料理屋だの、賑《にぎやか》な処を通り抜けると、旧街道のようで
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