所在なさに、金屏風の前へ畏《かしこま》って、吸子《きゅうす》に銀瓶の湯を注《つ》いで、茶でも一杯と思った時、あの小児《こども》にしてはと思う、大《おおき》な跫足《あしおと》が響いたので、顔を出して、むこうを見ると、小児と一所に、玄関前で、ひょいひょい跳ねている女があった。
「おおい、姉さん、姉さん。」
 どかどかどかと来て、
「旦那さんか、呼んだか。」
「ああ、呼んだよ。」
 と息を吐《つ》いて、
「どうにかしてくれ。――どこを探しても呼鈴はなし、手をたたいても聞えないし、――弱ったよ。」
「あれ。」
 と首も肩も、客を圧して、突込むように入って来て、
「こんな大《でけ》い内で、手を敲いたって何が聞えるかね。電話があるでねえか、それでお帳場を呼びなさいよ。」
「どこにある。」
「そら、そこにあるがね、見えねえかね。」
 と客の前から、いきなり座敷へ飛込んで、突立状《つったちざま》に指《ゆびさ》したのは、床の間|傍《わき》の、※[#「木+靈」、第3水準1−86−29]子《れんじ》に据えた黒檀《こくたん》の机の上の立派な卓上電話であった。
「ああ、それかい。」
「これだあね。」
「私はまた
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