たにし》の分際で、薄汚い。いろも、亭主も、心中も、殺すも、活《いか》すもあるものか。――静《しずか》にここを引揚げて、早く粟津の湯へ入れ――自分にも二つはあるまい、生命《いのち》の養生をするが可《い》い。」
「餓鬼めが、畜生!」
「おっと、どっこい。」
「うむ、放せ。」
「姐《ねえ》さん、放しておやり。」
「危《あぶね》え、旦那さん。」
「いや、私はまだその人に、殺されも、斬られもしそうな気はしない。お放し。」
「おお、もっともな、私がこの手を押えているで、どうする事も出来はしねえだ。」
「さあ、胸を出せ、袖を開けろ。私は指一つ圧《おさ》えていない。婦人《おんな》が起《た》ってそこへ縋《すが》れば、話は別だ。桂清水《かつらしみず》とか言うので顔を洗って私も出直す――それ、それ、見たが可《い》い。婦人《おんな》は、どうだ、椅子の陰へ小さく隠れて、身を震わしているじゃあないか。――帰りたまえ。」
また電燈が、滅びるように、呼吸《いき》をひいて、すっと消えた。
「二人とも覚えてけつかれ。」
「この野郎、どこから入った。ああ、――そうか。三畳の窓を潜《くぐ》って、小《ちっ》こい、庭境《にわざ
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