せる処だっけ。飛んでもねえ嫉妬野郎《やきもちやろう》だ。大《でけ》い声を出してお帳場を呼ぼうかね、旦那さん、どうするね。私が一つ横ずっぽう撲《は》りこくってやろうかね。」
「ああ、静《しずか》に――乱暴をしちゃ不可《いけな》い。」
教授は敷居へ、内へ向けて引きながら、縁側の籐椅子《とういす》に掛けた。
「君は、誰を斬るつもりかね。」
「うむ、汝《おどれ》から先に……当前《あたりまえ》じゃい。うむ、放せ、口惜《くやし》いわい。」
「迷惑をするじゃあないか。旅の客が湯治場の芸妓《げいしゃ》を呼んで遊んだが、それがどうした。」
「汝《おどれ》、俺の店まで、呼出しに、汝、逢曳《あいびき》にうせおって、姦通《まおとこ》め。」
「血迷うな、誤解はどうでも構わないが、君は卑劣だよ。……使った金子《かね》に世の中が行詰《ゆきづま》って、自分で死ぬのは、間違いにしろ、勝手だが、死ぬのに一人死ねないで、未練にも相手の女を道づれにしようとして附絡《つけまと》うのは卑劣じゃあないか。――投出す生命《いのち》に女の連《つれ》を拵《こさ》えようとするしみったれさはどうだ。出した祝儀に、利息を取るよりけちな男だ。
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