に説いたのであった。

「……ほんとに私、死なないでも大事ございませんわね。」
「死んで堪《たま》るものか、死ぬ方が間違ってるんだ。」
「でも、旦那さん、……義理も、人情も知らない女だ、薄情だと、言われようかと、そればかりが苦になりました。もう人が何と言いましょうと、旦那さんのお言《ことば》ばかりで、どんなに、あの人から責められましても私はきっぱりと、心中なんか厭《いや》だと言います。お庇《かげ》さまで助りました。またこれで親兄弟のいとしい顔も見られます。もう、この一年ばかりこのかたと言いますもの、朝に晩に泣いてばかり、生きた瀬はなかったのです。――その苦《くるし》みも抜けました。貴方は神様です。仏様です。」
「いや、これが神様や仏様だと、赤蜻蛉の形をしているのだ。」
「おほほ。」
「ああ、ほんとに笑ったな――もう可《よ》し、決して死ぬんじゃないよ。」
「たとい間違っておりましても、貴方のお言《ことば》ばかりで活《い》きます。女の道に欠けたと言われ、薄情だ、売女《ばいた》だと言う人がありましても、……口に出しては言いませんけれど、心では、貴方のお言葉ゆえと、安心をいたします。」
「あえ
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