たように見せながら、
「姉ちゃん、大すきな豆の餅《あんも》を持って来た。」
ものも言い得ず、姉さんは、弟のその頭《つむり》を撫《な》でると、仰いで笠の裡《うち》を熟《じっ》と視《み》た。その笠を被《かぶ》って立てる状《さま》は、かかる苦界にある娘に、あわれな、みじめな、見すぼらしい俄盲目には見えないで、しなびた地蔵菩薩《じぞうぼさつ》のようであった。
親仁《おやじ》は抱しめもしたそうに、手探りに出した手を、火傷《やけど》したかと慌てて引いて、その手を片手おがみに、あたりを拝んで、誰ともなしに叩頭《おじぎ》をして、
「御免下され、御免下され。」
と言った。
「正念寺様におまいりをして、それから木賃へ行《ゆ》くそうです。いま参りましたのは、あの妓《こ》がちょっと……やかたへ連れて行きましたの。」
突当《つきあたり》らしいが、横町を、その三人が曲りしなに、小春が行きすがりに、雛妓《おしゃく》と囁《ささや》いて「のちにえ。」と言って別れに、さて教授にそう言った。
――来た途中の俄盲目は、これである――
やがて、近江屋の座敷では、小春を客分に扱って、膳を並べて、教授が懇《ねんごろ》
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