山家の冬は、この影よりして、町も、軒も、水も、鳥居も暗く黄昏《たそが》れた。
駒下駄のちょこちょこあるきに、石段下、その呉羽の神の鳥居の蔭から、桃割《ももわれ》ぬれた結立《ゆいたて》で、緋鹿子《ひがのこ》の角絞《つのしぼ》り。簪《かんざし》をまだささず、黒繻子《くろじゅす》の襟の白粉垢《おしろいあか》の冷たそうな、かすりの不断着をあわれに着て、……前垂《まえだれ》と帯の間へ、古風に手拭《てぬぐい》を細《こまか》く挟んだ雛妓《おしゃく》が、殊勝にも、お参詣《まいり》の戻《もどり》らしい……急足《いそぎあし》に、つつッと出た。が、盲目《めくら》の爺《とっ》さんとすれ違って前へ出たと思うと、空から抱留められたように、ひたりと立留って振向いた。
「や、姉ちゃん。」――と小児《こども》が飛着く。
見る見るうちに、雛妓の、水晶のような※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った目は、一杯の涙である。
小春は密《そっ》と寄添うた。
「姉ちゃん、お父ちゃんが、お父ちゃんが、目が見えなくなるから、……ちょっと姉ちゃんを見てえってなあ。……」
西行背負の風呂敷づつみを、肩の方から、いじけ
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