もんじ笠を真直《まっすぐ》に首に据えて、腰に風呂敷包をぐらつかせたのが、すあしに破脚絆《やぶれぎゃはん》、草鞋穿《わらじばき》で、とぼとぼと竹の杖《つえ》に曳《ひ》かれて来たのがあった。
 この竹の杖を宙に取って、さきを握って、前へも立たず横添《よこぞい》に導きつつ、くたびれ脚を引摺ったのは、目も耳もかくれるような大《おおき》な鳥打帽の古いのをかぶった、八つぐらいの男の児《こ》で。これも風呂敷包を中結《なかゆわ》えして西行背負《さいぎょうじょい》に背負っていたが、道中《みちなか》へ、弱々と出て来たので、横に引張合《ひっぱりあ》った杖が、一方通せん坊になって、道程標《みちしるべ》の辻の処で、教授は足を留めて前へ通した。が、細流《せせらぎ》は、これから流れ、鳥居は、これから見え、町もこれから賑《にぎや》かだけれど、俄めくらと見えて、突立《つった》った足を、こぶらに力を入れて、あげたり、すぼめたりするように、片手を差出して、手探りで、巾着《きんちゃく》ほどな小児《こども》に杖を曳かれて辿《たど》る状《さま》。いま生命《いのち》びろいをした女でないと、あの手を曳いて、と小春に言ってみたいほど、
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