……畦の端の草もみじに、だらしなく膝をついた。半襟の藍に嫁菜が咲いて、
「おほほほほほほ、あはははは、おほほほほほ。」
 そこを両脇、乳も、胸も、もぞもぞと尾花が擽《くすぐ》る! はだかる襟の白さを合すと、合す隙に、しどけない膝小僧の雪を敷く。島田髷《しまだ》も、切れ、はらはらとなって、
「堪忍してよう、おほほほほ、あははははは。」
 と、手をふるはずみに、鳴子縄《なるこなわ》に、くいつくばかり、ひしと縋《すが》ると、刈田の鳴子が、山に響いてからからから、からからからから。
「あはははははは。おほほほほほ。」
 勃然《むっ》とした体《てい》で、島田の上で、握拳の両手を、一度|打擲《ちょうちゃく》をするごとくふって見せて、むっとして男が行くので、はあはあ膝を摺《ず》らし、腰を引いて、背には波を打たしながら、身を蜿《うね》らせて、やっと立って、女は褄を引合せざまに振向くと、ちょっと小腰を屈めながら、教授に会釈をするが疾《はや》いか。
「きゃあ――」と笑って、衝《つ》と駈《か》けざまに、男のあとを掛稲の背後《うしろ》へ隠れた。
 その掛稲は、一杯の陽の光と、溢《あふ》れるばかり雀を吸って、む
前へ 次へ
全59ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング