する姿で、うつむいて、
「おほほ、あはは、あははははは。あははははは。」
やがて、朱鷺色《ときいろ》の手巾《ハンケチ》で口を蔽うて、肩で呼吸《いき》して、向直って、ツンと澄《すま》して横顔で歩行《ある》こうとした。が、何と、自《おのず》から目がこっちに向くではないか。二つ三つ手巾に、すぶりをくれて、たたきつけて、また笑った。
「おほほほほ、あははは、あははははは。」
八口《やつくち》を洩《も》る紅《くれない》に、腕の白さのちらめくのを、振って揉《も》んで身悶《みもだえ》する。
きょろんと立った連《つれ》の男が、一歩《ひとあし》返して、圧《おさ》えるごとくに、握拳《にぎりこぶし》をぬっと突出すと、今度はその顔を屈《かが》み腰に仰向いて見て、それにも、したたかに笑ったが、またもや目を教授に向けた。
教授も堪《こら》えず、ひとり寂しくニヤニヤとしながら、半ば茫然として立っていたが、余りの事に、そこで、うっかり、べかッこを遣ったと思え。
「きゃっ、ひいッ。」と逆に半身を折って、前へ折曲げて、脾腹《ひばら》を腕で圧えたが追着《おッつ》かない。身を悶え、肩を揉み揉みへとへとになったらしい。
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