はだか》も見えた。もっとも宿を出る時、外套はと気がさしたが、借りて着込んだ浴衣の糊《のり》が硬々《こわごわ》と突張《つっぱ》って、広袖の膚《はだ》につかないのが、悪く風を通して、ぞくぞくするために、すっぽりと着込んでいるのである。成程、ただ一人、帽子も外套も真黒《まっくろ》に、畑に、つッくりと立った処は、影法師に狐が憑《つ》いたようで、褌《ふんどし》をぶら下げて裸で陸《おか》に立ったより、わかい女には可笑《おか》しかろう……
いや、蜻蛉釣《とんぼつり》だ。
ああ、それだ。
小鬢《こびん》に霜のわれらがと、たちまち心着いて、思わず、禁ぜざる苦笑を洩《もら》すと、その顔がまた合った。
「ぷッ、」と噴出すように更に笑った女が、堪《たま》らぬといった体《てい》に、裾をぱッぱッと、もとの方《かた》へ、五歩《いつあし》六歩《むあし》駈戻《かけもど》って、捻《ね》じたように胸を折って、
「おほほほほ。」
胸を反《そら》して、仰向《あおむ》けに、
「あはははは。」
たちまちくるりとうしろ向きに、何か、もみじの散りかかる小紋の羽織の背筋を見せて、向うむきに、雪の遠山へ、やたらに叩頭《おじぎ》を
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