つ、沈みつ、漾《ただよ》いつ。で、時々目がさめたように、パッと羽を光らせるが、またぼうとなって、暖かに霞んで飛交う。
日南《ひなた》の虹《にじ》の姫たちである。
風情に見愡《みと》れて、近江屋の客はただ一人、三角畑の角に立って、山を背に繞《めぐ》らしつつ彳《たたず》んでいるのであった。
四辺《あたり》の長閑《のど》かさ。しかし静《しずか》な事は――昼飯を済《すま》せてから――買ものに出た時とは反対の方に――そぞろ歩行《あるき》でぶらりと出て、温泉《いでゆ》の廓《くるわ》を一巡り、店さきのきらびやかな九谷焼、奥深く彩った漆器店。両側の商店が、やがて片側になって、媚《なまめ》かしい、紅《べに》がら格子《ごうし》を五六軒見たあとは、細流《せせらぎ》が流れて、薬師山を一方に、呉羽神社《くれはじんじゃ》の大鳥居前を過ぎたあたりから、往来《ゆきか》う人も、来る人も、なくなって、古ぼけた酒店《さかみせ》の杉葉の下《もと》に、茶と黒と、鞠《まり》の伸びたほどの小犬が、上になり下になり、おっとりと耳を噛《か》んだり、ちょいと鼻づらを引《ひっ》かき合ったり。……これを見ると、羨《うらや》ましいか、桶
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