》れている。藁《わら》が散り、木の葉が乱れた畑には、ここらあたり盛《さかん》に植える、杓子菜《しゃくしな》と云って、株の白い処が似ているから、蓮華菜《れんげな》とも言うのを、もう散々に引棄てたあとへ、陽気が暖《あたたか》だから、乾いた土の、ほかほかともりあがった処へ、細く青く芽をふいた。
畑の裾は、町裏の、ごみごみした町家《まちや》、農家が入乱れて、樹立《こだち》がくれに、小流《こながれ》を包んで、ずっと遠く続いたのは、山中|道《みち》で、そこは雲の加減で、陽が薄赤く颯《さっ》と射《さ》す。
色も空も一淀《ひとよど》みする、この日溜《ひだま》りの三角畑の上ばかり、雲の瀬に紅《べに》の葉が柵《しがら》むように、夥多《おびただ》しく赤蜻蛉《あかとんぼ》が群れていた。――出会ったり、別れたり、上下《うえした》にスッと飛んだり。あの、紅また薄紅、うつくしい小さな天女の、水晶の翼は、きらきらと輝くのだけれど、もう冬で……遊びも闌《たけなわ》に、恍惚《うっとり》したらしく、夢を※[#「彳+尚」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]《さまよ》うように、ふわふわと浮き
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