うか。私をお婿《むこ》さんにしてくれれば。……」
「するともさ。」
「私は働きがないのだから、婿も養子だ。お前さん養ってくれるかい。」
「ああ、養うよ。朝から晩まですきな時に湯に入れて、御飯《おまんま》を食べさして、遊ばしておけばそれでよかろうがね。」
「勿体《もったい》ないくらい、結構だな。」
「そのくらいなら……私が働く給金でして進ぜるだ。」
「ほんとかい。」
「それだがね、旦那さん。」
「御覧、それ、すぐに変替《へんがえ》だ。」
「ううむ、ほんとうだ、が、こんな上段の室《ま》では遣切《やりき》れねえだ。――裏座敷の四畳半か六畳で、ふしょうして下さんせ、お膳の御馳走も、こんなにはつかねえが、私が内証《ないしょ》でどうともするだよ。」
客は赤黒く、口の尖《とが》った、にきびで肥《ふと》った顔を見つつ、
「姐さん、名は何と言う。」
と笑って聞いた。
「ふ、ふ、ふ。」と首を振っている。
「何と言うよ。」
「措《お》きなさい、そんな事。」
と耳朶《みみたぼ》まで真赤《まっか》にした。
「よ、ほんとに何と言うよ。」
「お光だ。」
と、飯櫃《めしびつ》に太い両手を突張《つっぱ》って、ぴ
前へ
次へ
全59ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング