げいしゃ》でね、それだで、雑貨店の若旦那を、治兵衛坊主と言うだてば。」
「成程、紙屋――あの雑貨店の亭主だな。」
「若い人だ、活《い》きるわ、死ぬるわという評判ものだよ。」
「それで治兵衛……は分ったが、坊主とはどうした訳かね。」
「何、旦那さん、癇癪持《かんしゃくもち》の、嫉妬《やきもち》やきで、ほうずもねえ逆気性《のぼせしょう》でね、おまけに、しつこい、いんしん不通だ。」
「何?……」
「隠元豆、田螺《たにし》さあね。」
「分らない。」
「あれ、ははは、いんきん、たむしだてば。」
「乱暴だなあ。」
「この山代の湯ぐらいでは埒《らち》あかねえさ。脚気《かっけ》山中《やまなか》、かさ粟津《あわづ》の湯へ、七日湯治をしねえ事には半月十日寝られねえで、身体《からだ》中|掻毟《かきむし》って、目が引釣《ひッつ》り上る若旦那でね。おまけに、それが小春さんに、金子《かね》も、店も田地までも打込《ぶちこ》んでね。一時《いっとき》は、三月ばかりも、家へ入れて、かみさんにしておいた事もあったがね。」
――初女房《ういにょうぼう》、花嫁ぶりの商いはこれで分った――
「ちゃんと金子を突いたでねえから、抱
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