とピタリと辞書を裏返しにして乗掛《のつけ》るしかけなんでせう。処が薄い本だと宜いが、厚いのになると其呼吸が合ひますまい。其処でかたはらへ又沢山課目書を積んで、此処へ辞書を斜めにして建掛けたものです。さうすると厚いのが隠れませう。最も恁うなるといろ[#「いろ」に傍点]あつかひ。夜がふけると、一層身に染みて、惚込《ほれこ》んだ本は抱いて寝るといふ騒ぎ、頑固な家扶《かふ》、嫉妬《じんすけ》な旦那に中をせか[#「せか」に傍点]れていらつしやる貴夫人令嬢方は、すべて此の秘伝であひゞき[#「あひゞき」に傍点]をなすつたらよからうと思ふ。
 串戯《じやうだん》はよして、私が新しい物に初めて接したやうな考へをしたのは、春廼家《はるのや》さんの妹と背かゞみで、其のころ書生気質は評判でありましたけれども、それは後に読みました。最初は今申した妹と背かゞみ、それを貸して呉れた男の曰く、この本は気を付けて考へて読まなくてはいけないよと、特にさう言はれたからビクビクもので読んで見た。第一番冒頭に書して、確かお辻と云ふ女《むすめ》、「アラ水沢《みさは》さん嬉しいこと御一人きり。」よく覚えて居るんです。お話は別になり
前へ 次へ
全15ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング