説の中にある主人公などは、善人の方よりは悪党がてきはき[#「てきはき」に傍点]して居て可い、善人とさへ謂《い》や、愚図々々しやあがつて、何《ど》うかしたらよささうなもんだ。泣いたり、口説いたり、何のこツたらう。浄瑠璃《じやうるり》のさはりとなると頭痛がします。併《しか》し、敵役《かたきやく》の中でも石川五右衛門は甚だ嫌ひですな。熊坂長範の方が好い。此頃また白縫の後の方を見ると、口絵に若菜姫を描いて、其上へ持つて来て、(皆様御贔屓の若菜姫)と書いてある。して見ると一般の読者にも、彼の姐《ねえ》さんは人気があつたものと見えますね。
 母はからだが弱くつて……大層若くつて亡《なく》なりましたが……亡なつた時分に、私は十歳《とを》だつたと思ひます。其の前から小学校へ行くやうになつて、本当の字を少し許《ばか》り覚えたりなにかした。それから暫《しばら》くさう云ふものに遠ざかつて居た、石盤をはふり出して、いきなり針箱の上へ耶須多羅女《やすたらによ》の泣いて居る処を出されて御覧なさい。悉達《しつた》太子を慕つて居るのと絵解をするものは話さねばならないでせう。さて其の(慕ふ)といふことを子供に説明をして
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