分もまた其様《そん》な物を読むと云ふ智慧はない時分で、始終絵ばかりを見て居たものですから、薄葉《うすえふ》を買つて貰つて、口絵だの、※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵だのを写し始めたんです。それから鎧武者《よろひむしや》が大変|好《すき》になりました。それに親父《おやぢ》が金属の彫刻師《ほりし》だものですから、盃《さかづき》、香炉、最《も》う目貫縁頭《めぬきふちがしら》などはありませんが、其仕事をさせる積りだつたので、絵を習へと云ふので少しばかりネ、薄《すゝき》、蘭《らん》、竹などの手本を描いて貰ひましたが、何、座敷を取散かしたのが、落で。其中に何なんです。近所の女だの、年上の従姉妹《いとこ》だのに、母が絵解をするのを何時《いつ》か聞きかじつて、草双紙の中にある人物の来歴が分つたものだから、鳥山秋作照忠、大伴《おほとも》の若菜姫なんといふのが殊の外|贔屓《ひいき》なんです。処が秋作、豊後之助の贔屓なのは分つて居るが、若菜姫が宜《よ》くツてならない、甚だ怪しからん、是《これ》は悪党の方だから、と思つて居たんです。のみならず、一体どう云ふものだか、小
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