積《そのつも》りで申しませう。母が貴下《あなた》、東京から持つて参りましたんで、雛の箱でささせたといふ本箱の中に『白縫物語』だの『大和文庫《やまとぶんこ》』『時代かゞみ』大部なものは其位ですが、十冊五冊八冊といろ/\な草双紙の小口が揃《そろ》つてあるのです。母はそれを大切にして綺麗《きれい》に持つて居るのを、透《すき》を見ちやあ引張り出して――但し読むのではない。三歳四歳では唯《た》だ表紙の美しい絵を土用干のやうに列《なら》べて、此《この》武士は立派だの、此娘は可愛いなんて……お待ちなさい、少し可笑《をか》しくなるけれど、悪く取りつこなし。さあ段々絵を見ると其|理解《わけ》が聴きたくなつて、母が裁縫《しごと》なんかして居ると、其処《そこ》へ行つては聞きましたが、面倒くさがつてナカ/\教へない。夫《そ》れを無理につかまへて、ねだつては話してもらひましたが、嘸《さ》ぞ煩《うる》さかつたらうと思つて、今考へると気の毒です。なるほど脚色《すぢ》だけは口でいつても言はれますが、読んだおもしろ味は話されません。又知識のないものに、脚色《すぢ》だけ話をするとなると、こんな煩さい事はないのですから、自
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