、聞かせるものは、こりやよほど面倒だから、母もなりたけ読ませないやうにしたんです。それに親父が八釜敷《やかまし》い、論語とか孟子とか云ふものでなくつては読ませなかつた。処が少しイロハが読めるやうになつて来ると、家にある本が読みたくなつたでせう。読んでると目付《めつ》かつて恐ろしく叱《しか》られたんです。そこで考へて、机の上に斯《か》う掛つて居る、机掛ね、之《これ》を膝の上へ被《かぶ》さるやうに、手前を長く、向うを一杯にして置くので、二階に閉籠つて人の跫音《あしおと》がするとヒヨイと其の下へ隠すといふ、うまいものでせう。時々見付かつて、本より、私の方が押入へしまはれました。恁《かう》いふのはいくらもある。一葉女史なんざ草双紙を読んだ時、此《この》人は僕と違つて土蔵があつたさうで、土蔵の二階に本があるので、故《わざ》と悪戯《いたづら》をして、剣突《けんつく》を食つて、叱られては土蔵へ抛《はふ》り込まれるのです。窓に金網が張つてあるのでせう。其網の目をもるあかりで細かい仮名を読んだ。其の所為《せゐ》で、恐ろしい近視眼《ちかめ》、これは立女形《たてをやま》の美を傷つけて済みません。話が色々にな
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