ゐ》なら両手をひろげて追まはす。続物の文章ならコレおむすとしなだれかゝる[#「しなだれかゝる」に傍点]、と大抵相場のきまつて居た処でせう。
 また一人の友人があつて、貧乏長屋の二階を借りて、別に弟子を取つて英語を教へて居つた。壁隣が機業家《はたや》なんです、高い山から谷底見れば小万可愛や布|晒《さら》すなんぞと、工女の古い処を唄つて居るのを聞きながら、日あたりの可い机の傍で新版を一冊よみました。これが私ども先生の有名ないろ懺悔[#「いろ懺悔」に白丸傍点]でございました。あの京人形[#「京人形」に白丸傍点]の女生徒の、「サタン退けツ」「前列進め」なぞは、其の時分、幾度繰返したか分りません。夏痩[#「夏痩」に白丸傍点]は、辰《たつ》ノ口《くち》といふ温泉の、叔母の家で、従姉《いとこ》の処へわきから包ものが達《とゞ》いた。其上包になつて読売新聞が一枚。ちやうど女主人公の小間使が朋輩の女中の皿を壊《こは》したのを、身に引受けて庇《かば》ふ処で、――伏拝むこそ道理なれ――といふのを見ました。纏《まとま》つたのは、たしかこちらへ参つてからです。田舎は不自由ぢやありませんか。しかしいろ懺悔[#「いろ
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