に歩くのは厭だよ」と云わぬばかりに。
「みんなは若けえからストライキだって元気でやれるんだ。だが俺は――」
「もう好いよ。愚痴は云うな、甲吉」
「お前えまで、俺を……職場から出て行けがしにする」としおしおしてやがる。
「どう致しまして。お前えの首を馘《き》るなア、資本[#「資本」に「×」の傍記]家の役目さ」と俺は云ってやった。
 三カ月たった。或日――
「甲吉の野郎がやられた!」という叫びが工場中に鳴り渡った。あの、誰かが機械にやられた時、俺らの胸がドンと突く、妙に底鳴りのする叫び声だ。
 俺は走って行った。人だかりを押しわけて俺は見た、甲吉の野郎、何て青い顔だ、そして血だ。片手をやられて倒れている。
 誰も、ざまア見ろ、とは云わなかった。
 あれは、俺らの姿[#「姿」に「×」の傍記]だ。
 担架で運ばれて行く負傷者を、みんな黙々として見送った。
「俺たちを裏切ったあいつ。」
 けれども、
「あいつも、プロレタリア[#「プロレタリア」に「×」の傍記]だ。」
 そんな気持ちだった。次ぎに、俺らは、会社が裏切[#「裏切」に「×」の傍記]者に対して、どんな態度を執るかを見守った。
 百円――
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