《はう》に耳《みゝ》を傾《かたむ》けて、
「あア、麻雀《マアジヤン》をやつてるんだよ。」
「麻雀《マアジヤン》?」
 僕《ぼく》がさう鸚鵡返《あうむがへ》すと同時《どうじ》に、僕《ぼく》の傍《そば》にゐた瓜實顏《うりさねがほ》は可憐《かれん》な聲《こゑ》で、
「好的麻雀《ハオデモジヤ》……」
 と、微笑《びせう》とともに呟《つぶや》いた。
 今《いま》でこそ、僕《ぼく》もどうやら四|段《だん》といふ段位《だんゐ》をもらへるほどに麻雀《マアジヤン》にも耽《ふけ》り親《した》しんでゐるが、かれこれ十|年《ねん》も昔《むかし》の話《はなし》だ。奉天城内《ほうてんじやうない》のと或《あ》る勸工場《くわんこうぢやう》へはひつて、或《あ》る店先《みせさき》に並《なら》べてあつた麻雀牌《マアジヤンパイ》の美《うつく》しさに眼《め》を惹《ひ》かれて、
「綺麗《きれい》なもんですね。何《なに》か飾《かざ》り物《もの》ですか?」
 と、連《つ》れの人《ひと》に尋《たづ》ねかけると、
「いやア、ばくち[#「ばくち」に傍点]の道具《だうぐ》ですよ。日本《にほん》のまア花合《はなあは》せですかね。」
と、幾《い
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