とよりその成功の大部分をなしてゐた。そしてその二つによつてそれが一そう完全にされたのは云ふまでもないが、何しろ題材が實によかつた。それはたとへばチエエホフなどに使へば、例の涙と笑ひの内に巧みな心理描寫を以て好短篇をなすに違ひないやうな立派な文藝的内容も持つてゐた。いや、或はあの映畫の現し得てゐた處のものはさう云ふ場合のチエエホフの筆のそれよりも勝つてゐるくらゐだつたが、何れにしても映畫の内にあんな題材を取り入れて、而もそれをあれほど生かし得るものかと、私は寧ろ驚いた。この「最後の人」よりもずつと低調で、結末の意想が割につまらなくはあつたが、同じやうにちよつとした文藝内容を捉へて、それを映畫的にうまく生かしたものに「救ひを求むる人々」がある。これも私の見た内で好もしい映畫の一つだ。
 さて「最後の人」や「救ひを求むる人々」はよき文藝的内容を捉へて、而もそれを映畫的にうまく生かしてある意味で、所謂文藝映畫などよりもずつと面白い、感じの深いものであるが、文藝的内容などには全くかかはり無しに、映畫の本領特質を遺憾なく發揮して、云ひ換へれば、映畫的内容の面白さで感心したのは、これも最近に見た「ホ
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