テル・イムペリアル」だ。あの映畫は内容はごく通俗的な軍事劇だ。どこにも打たれるとか動かされると云ふやうな點はない。然し、私がこれまでに見たものの中で、あれほど映畫的な映畫として巧に作られたものはない。筋も筋だが、その段取り、そのやま、その明暗、その背景の取り方、その光線の扱ひ方、人物の出し入れ、クロオズアツプやフラツシユバツクの用ゐ方、全く映畫的なもののすべてが活殺自在に少しの無駄もなくそこに操られてゐる。で、次から次へと加速度的に面白さや好奇的な感じが集積して、胸躍ると云つた工合に惹きつけられて行く。結局終つてしまへば「なんだい………」と思ふ程度のものだが、そして、後半はずつと前半に劣るが、とにかく見てゐてあんなに面白い映畫はまあ珍しい。云つてみれば、「最後の人」や「救ひを求むる人々」のやうなのも無論結構だが、生半可に文藝的内容なんぞにこだはらずに、映畫的にあすこまで徹底してもらへば「ホテル・イムペリアル」のやうなのも非常に面白い。そして、あれが寧ろほんとの映畫だと云ふ氣持もする。 (昭和二・三・三)
底本:「映畫時代五月號」文藝春秋社
1927(昭和2)年5月1日発行
前へ
次へ
全9ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南部 修太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング