の gap を造つた。快き第一印象は、時とすると惡しき第二第三の印象をも包まうとする。が、私達はその反對を先生との感情の中に味《あぢは》つた。そして全く單純な誤解に始まつた先生の私達に對する不快の氣持は、その日から漸次に色を深めて行くやうに思はれた。先生は何かと云ふと激昂された、詞に角を立てた。先生の、殆ど病的と思はれるばかりに鋭敏な神經は、私達の前に立つと何時《いつ》も苛立《いらだ》つてゐた。その顏には絶えず陰重な影が差してゐた。私達は先生の朗かに笑つた顏を一度も見たことはなかつた。先生は恰《あたか》も生存の歡びを忘れた人のやうに感じられたのである。
「面白くない先生だ。」と、私達は囁き合つた。「面白くない生徒だ。」と、恐らく先生も自らに呟いてをられたに違ひなかつた。
が、面白くない先生は猫又先生だけには限らなかつた。T中學校の教員室にも色々な性格を持つた先生達が集まつてゐたのである。頑迷その物の化身かと思はれるやうな教頭がゐた。半《なかば》禿げ上つた額、曲つた鼻、人情の何たるかを解しないやうな冷然たる眼。そして不幸な私達は聞いても聞いてゐられないやうな反感をそそられながら、その少
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