べて、話し合つた。硝子戸越しに差す日影は春らしく氣持よく輝いてゐた。
「おい、この間|高輪《たかなわ》の御殿山で猫又さんに會つたぜ。」何かの話が途切れた後で、得能はふと思ひ出したやうに云つた。
「なに、猫又さんに……」私は驚いて聞き返した。
「さうなんだ。丁度土曜日でね、あの近所にゐる友達を訪ねた、處がゐなかつた、その歸り路さ。ほら毛利公爵の邸の横手に薄暗い急な坂道があるだらう。八つ山へ降りる……あすこでなんだ。」得能は海軍士官らしい輕快な調子で話し出した。
「妙な處で會つたもんだね。」
「さうだ。とに角僕が坂を降り掛けようとすると、下からペンギン鳥のやうな恰好で登つてくる老人がある。それが君、思ひ掛けない猫又さんさ。而も羊羮色になつた黒のモオニングに、穴のあいた中折を被り、そして泥まみれの深ゴム靴は圓い革を當てて處々|繕《つくろ》つてある……」
「何だい、まるで昔そのままぢやないか。」私の眼の前には、T中學校の教室で見慣れた猫又先生の姿が、ひよつくり浮び上つた。
「だからね、あんまり樣子が變らな過ぎるよ。小田原提灯のやうなヅボンの皺から、手の上に二寸もはみ出た白いカフスの汚れ方、それ
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