に例の金鎖さ。で、ひよいと先生の姿を見た時は、その昔のままなのが堪らなく懷《なつか》しくつてね。思はず駈け寄つて觸つてみたいやうな氣持がした。然し、流石《さすが》に昔のことを思ふと、氣が引けて話し掛ける勇氣も出なかつた。そしてぐづぐづしてる内に、お互に擦《す》れ違つてしまつたんだ。無論僕を、海軍中尉の服を着てゐた僕を、十年前の教へ子だと氣附かれる筈もない。先生にとつて僕は全く路傍の人だつたのさ。」
「無理もない。考へてみると、丁度十年になるからね。」私は少し囘想的な、センチメンタルな氣持になつた。
「然し、全くお互にあの時分は若かつた。君も隨分やんちやなお坊ちやんだつたが、實際、何處の學校騷動にだつて、顏付が氣に入らないつて先生に食つて掛かつた生徒は先づあるまい。人間は感情の動物です――なんかは、恐らく君一代の傑作だね。」得能はさう云つて、スリイ・キャッスルの烟《けむり》を吹いた。二人も顧みて高らかに笑つた。
「だが、先生はやつぱり先生をやつてられるのか知ら……」
「さ、それが確にさうなんだ。その時、二人が擦れ違つた途端にひよいと振り向くと、先生の少し猫背になつた肩の處にチョオクの粉が
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