うな心持で腰を降した時、みんなは一齊に私に向つて拍手した。その時|俯向《うつむ》いてゐた私の眼に涙が染《にじ》んでゐるのを知つてゐたのは、恐らく私ばかりであつたに違ひない。
 やがて「つくね芋」の教頭が來た、豫備特務曹長の生徒監が來た。そして四年級乙組の三十七人は譯もなく二人の despotism に征服された。一學期の試驗の結果が發表された時、私の操行考査は二等から五等に下つてゐた。
 が、暑中休暇が過ぎて、さわやかな秋の新學期が始まつた時、もう私達は猫又先生の姿を黒板の前に見ることは出來なかつた。噂に依れば先生が中學生から排斥されたのは、私達が三度目だつたさうである。
 ――猫又や可《べ》かり可《べ》かるで一時間――誰の作つたとも知れない狂句が、時々みんなの口に上つてゐたが、秋が深くなつて行くと共に、先生の姿は何時かみんなの記憶の中に薄れてしまつた。

     〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 三月の初めの、或る晴れた日の午後であつた。私は久し振りに得能の訪問を受けた。彼は海軍大學の乙種學生で、既に一人の子の父になつてゐた。
「好い陽氣になつたね。」二人はかう云ひながら縁側に籐椅子を並
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