でゐた。まばらな赤い口髭の撥《は》ねた横顏は、その時五十を越した人間の寂しさを語るやうに暗く見えた。その身動きもしない先生の貧相な姿を見てゐると、私は一種の重苦しい壓迫が自分の胸に迫るのを感ぜずにはゐられなかつた。一時に奔騰《ほんとう》した感情が漸次に鎭靜してくるのを私は意識した。と同時に、我を忘れた輕彈《かるはず》みな自分の詞が、何となく悔いられるやうな氣持になつた。立ち上つた席に今更坐ることも出來ない心苦しさを感じながら、或る忌々《いまいま》しい感情が心の中に擴がつて行くのを私はどうする事も出來なかつた。
「さうか、それでは爲方がない。勝手にし給へ。」先生は苦澁に充ちた瞳をひよいと振り向けて、捨て鉢にかう云つた。その瞬間に現れた先生の表情はもう怒りのそれではなかつた。ただはつとする程の絶望的な寂しさを語つてゐた。先生は教机の上にあつた出席簿と國語讀本を掴《つか》み上げて、手荒く扉を開いて教室を出て行かれた。ぼんやりそれを見詰めてゐたみんなは、先生の亂調子な靴音が廊下を遠ざかつて行くのに氣が附いた時、初めてわつと喝采した。
「宮原君、巧くやつたね。素適、素適……」私ががつくり疲れたや
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