等の效果にもならない事をよく知つてゐた。で、其處へ突然大膽に發言した武井の聲が響いたので、みんなは圖星を指されたやうな驚きを感じたのである。
「とに角あんな先生に教はらなくたつて好いんだ。」と、得能が或る瞬間の沈默の後に云つた。
「さうだ。學校に頼んで更《か》へて貰はう。更へてくれなきやあ最後の手段だ。」と、級長の谷が激越な態度で云つた。みんなは一種の叛逆的な氣分の快さに醉はされたやうに暗默裡に頷《うなづ》いた。先生の身に同情しようとする心の弱みは、みんなの胸に影もなくなつてゐた。
二三日經つて、級長の谷以下のクラスの代表者六人から申し出た猫又先生更任願は、教頭の劇しい叱責と共に素氣《すげ》なく却《しりぞ》けられた。教頭は冷かな眼でみんなを見下しながら云つた。
「一體君等は學生の本分を何と心得てゐる、實に生意氣千萬な事だ。學校は君等に對して決して不適任な先生を授けやしない。考へて見給へ。これが若し軍隊の出來事で、高橋先生が君達の上官だつたとしたらどうなると思ふ。君達は上官に抵抗する者として、銃殺されぬとも限らない。」教頭は自ら比喩し得て妙と云はんばかりの倨傲《きよがう》な態度で云つた
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