強い喘息發作、アストオル吸入で鎭まるには鎭まつたが何やら不安なのでエフエドリン一錠半服用、例の陶醉的作用でやがて再び昏昏と眠り入る。十二時近く起床。幸ひ發作はすつかり止まつてゐたが、劇藥的な錠劑服用のあとで頭重く、體だるく、氣分がひどく陰欝だが、さういふ状態を人には出來るだけ平然と裝つてゐたいのが變に意地つ張りな自分の癖だから、それか自らには一そう内訌する。こいつが晝には全くやりきれない。生きる事の辛さを感じる。
 三時頃、散髮でもしようと思ひ立つて家を出る。電車通で息子さんを連れた大宮春枝夫人に會ふ。息子の勉強の事で今お宅へ御相談に行く所だといふ。家へ戻らうといふと、それには及ばぬといふので、立話で用件を聞いて六本木の散髮屋の方へと別れる。別れてから、やつぱり自分は少少不機嫌なのだなとすぐ思ふ。いつもの自分ならあれほど息子さんのために心を碎いてゐる春枝夫人のために進んで家へ戻つたに違ひなかつたから。然し、今や二十餘年お馴染みの散髮屋でクシヤクシヤした頭をいじつてもらひ、お互に口數は少い方だがポツポツ氣樂な世間話を交へてゐる内に、何となくふさぎの蟲の飛び散つて行くの感じた。そして、頭を
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