ると間もなく、これも同町内の梅原龍三郎さんから電話。先方の臺灣旅行でこのところ久振の將棋の挑戰だ。時もよし、ござんなれと待つほどもなく、先づお土産の大甲藺製の卷煙草入を頂戴し、臺灣の話もそこそこにして早速一番、ところがこれが意外の大亂戰となつてしまつた。序番自分よく、中盤惡手から駒損となり玉再再ならず窮地に陷つて、梅原さん意氣大に上つてゐたが、自分屈せず腹を据ゑて長考幾度、やがて百二三十手頃の終番に近く、隙を見て奮然逆襲、敵の應酬の失を捉へて過に勝名乘を擧げてしまつた。正に一時間半餘に及ぶ珍しき力戰、梅原さんの無念の色は深かつたが、かういふ一戰は負けても勝つても寧ろ憾みなしと言ふべきか?
 六時過、和木清三郎、倉島竹二郎來訪。雜談の後、再び棋戰を交へてゐると、突然東日社から倉島君へ電話。神田七段の昇段問題で日本將棋聯盟に紛擾起り、分裂の危機に頻すとの事、お役目柄倉島君忽卒として暇を告げて行く。入れ違ひに文藝春秋社の文士劇の舞臺稽古をして來たといふ佐佐木茂索來訪。三人で暖爐を取りかこみながら雜談、再び棋戰交交、つい十二時近くになつてしまつた。

 水曜日――。
 昨日一日の疲れか明方やや
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