シイの「海」、シヨパンの「ピアノ協奏曲」、最後にお氣に入りのリストの「ハンガリイ狂想曲第六番」、近頃暫く落ち着いてレコオドを聽く暇もなかつたので今夜は少し盛り澤山だ。それにしても、ここ八九年の間隔をおいて自分のレコオド熱は俄然復活して來た。八月の末に新しい電氣蓄音機を購ひ得たせゐだが、とりわけレコオドの録音の進歩に驚歎する。大正時代の熱中期に買ひ集めた二百餘枚のレコオドのかびさへはえてゐたのを拭き磨いて今更の如く掛けてみるのだが、こんなのを嬉しがつて聽いてゐたのかと呆れるばかりだ。
七時頃和木清三郎から電話。明日の久保田万太郎夫人の告別式にお辭儀役の件、勿論そのつもりでゐたので謹んで承諾する。十二時過ぎまで讀書。戸外に雨音が聞え出した。
火曜日――。
九時起床。しとしとと晩秋らしい冷雨が降りしきつてゐる。時しも久保田万太郎夫人告別式の日、何やら如何にも降るべき時に降つたとも言へるやうな蕭絛たる小さはしい雨だ。正午過妻とともに本郷の喜福寺へ急ぐ。一時から二時過ぎまで井汲清治、和木清三郎、勝本清一郎達と肩を並べてお辭儀役。時時風を交へて降りまさる雨のしぶきの中、文壇藝苑の華やかな顏
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