流麗、それに可成《かな》りな藝術味を加へて、全く興味津々|卷《くわん》をおほう能はざらしめるものはモオリス・ルブランの作品にまさるものはない。その緻密な推理力(無論探偵的な)に驚くべきものがあつても、全篇の面白味に至つては、コナン・ドイル到底ルブランの比ではないやうに思はれる。單にフイクジヨン作りの手腕の巧さなどと云《い》ふよりも、とに角あれ程の面白さを持つた相當の長さの作品を續々産み出すルブランはよつぽど好い頭の持主であるに違ひない。
處《ところ》で、探偵小説の世界は要するにロマンスの世界である。空想的な、虚構の世界である。例へば、ルブランの好い頭が如何《いか》にほんたうらしく、起り得るらしく、あり得るらしく作中の事件事實を作り出してゐようと、無論あんなものが私達の現實社會にあり得る筈はない。が、探偵小説の面白さは實際にあり得ない事があり得るらしさに近づいてゐればゐる程強められ深くなる。不思議が如何《いか》にも不思議らしく、トリツクが如何《いか》にもトリツクらしく、或は虚構が如何《いか》にも虚構らしく露骨に作の上に浮いてゐるやうでは、それはまづい探偵小説と云《い》つて好い。從つてあ
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