な恐怖感に襲はれたりするのであつた。少年時代と探偵小説と、この頃の少年達がちやうど活動寫眞の探偵物に熱狂するやうにそこに何かの追憶を持たない人はないであらう。さうした讀書から自然に覺えた探偵ごつこ、自分の友達の多少|魯鈍《ろどん》なのを兇賊《きようぞく》に仕立てたりして、それをわら繩で縛り上げる敏腕な探偵は、私の少年時代のある時の姿だつたから……。
 いや、さう云《い》ふ少年の日でなくとも、幾つとなく年を重ねたこの頃でも、私の探偵小説に對《たい》する興味はなかなか衰へない。ドイルやルブランの作品の多くは云《い》ふまでもなく、ポオの『病院横町の殺人犯』チエスタアトンの『青い十字架』など。またその作の性質から自然探偵小説的な匂のするクロポトキンの『革命家の思出』ステプニヤツクの『虚無主義者の經歴』、ロオプシンの『青白い馬』など、何《いづ》れも愛讀した。母が好きで買つてくる綺堂さんの『半七捕物帳[#底本は「張」]』と云《い》つたごく通俗的な探偵物語さへ、それが探偵物であるが故に病床などで時時讀む。が、何と云《い》つても探偵小説でその構想の卓拔、トリツクの妙味、筋の複雜、心理解剖の巧さ、文章の
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