筋をからませ、綾をつけて、讀者を享樂させるものである。つまり人間の本能の弱味を巧に捉へてゐる處《ところ》に探偵小説の魅力がある。興味中心の讀物として探偵小説程私達にとつて面白いものはないと云《い》ふのは、この理由からに外ならないと、私は思ふ。
 子供の時から體《からだ》が弱くて始終病床に臥せつたり、入院生活を送つたりした私は、十三四の頃から、病氣のなほりがけの徒然の時に、冒險小説などと一緒に、あの妙に好奇心[#底本は「好寄心」]を刺戟するやうな石版刷の毒々しい挿繪のある、[#底本では句点]外國の飜案物や花井お梅だの、五寸釘の虎吉だのと云《い》つた實説物の安い探偵本を讀みふけつた。雪の上に殘つた足跡だの、死人が左手に掴んでゐた三本の縮《ちゞ》れ毛だの、節穴からのぞいた鋭い瞳だの不思議な老人の出現だのと、好奇心は刺戟され、空想は活溌にはね廻り、作中の探偵と共に祕密を探る異樣な快感に醉はされながら、讀み始めると、私は終りまで本を離せなかつた。そして、どうかすると眞夜中過ぎても眠れずに、變に冴えてしまつた頭の中で物語のあとをまた色々に辿りながら、時には隣に寢てゐる祖父母達を呼び起したくなるやう
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