それは彼もちよつと云《い》つたやうに人間の、廣《ひろ》く云《い》へば人生に於ける犯罪をあばき出し、祕密を探り出し、或は不思議を解決する事である。處《ところ》で、人間は誰しもさう云《い》ふ事には本能的に興味や好奇心を持ち、強く誘惑される性質をそなへている。そして、實際にさう云《い》ふ事にぶつかると、本能の滿足から一種の快感を感じる。云《い》ふならば、彼の所謂《いはゆる》嬉しさの味とは、そこまでに到る彼の職業上の苦心努力の報いられた喜びに一そう強められた、[#底本では句点]その快感に外ならない。然し、彼は普通の人間とは違つて、さう云《い》ふ仕事を自らの職業とする人である。で、實際にあたつては、彼が私に話し聞かせたやうに職業としてのつらさ、厭《い》やさを同時に味ははなければならないのである。處《ところ》がここにその快感を、彼の所謂《いはゆる》嬉しさの味を純粹に私達に享樂させてくれるものがある。それがつまり探偵小説だ。云《い》ひ換へれば探偵小説と云《い》ふものは、人間が本能的に惹きつけられる處《ところ》の祕密の曝露《ばくろ》、犯罪の摘發、或は不思議の解決とか云《い》ふ事を作る主題にして、それに
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