世間では何のかんのと非難が聞え出す。さう云《い》ふ中で、人知れずあせつたりぐれたりしながら、東へ走り西へ飛ぶ。まるで身も心も張り切るだけ張り切るんです。その擧句《あげく》に、全くちよいとした事から人に先んじて一つの有力な手掛を掴み出した時、そのまま飛び上つて踊り出したいやうな、慾得離れた嬉しさと云《い》つたら、やつぱりこの仕事をやつてる者でなければ分らない味ですね。變なもので、その手掛から犯人があがつた時には得意とか安心とか云《い》ふよりも、寧ろ何となく胸を抑へられぬやうな厭《い》やな氣持がするもんです。まあ要するにその前の嬉しさの味ですよ。私がこの仕事を捨てられない魅力《チヤアム》と云《い》ふのは!』
小憎らしい程落ち着いた、[#底本では句点]冷靜な人だつたが、ちよつと興奮した聲でかう詞《ことば》を結ぶと、その嬉しさの味のためには一生その仕事を止めないだらうと云《い》ふ風に、彼は靜かな微笑を唇に浮べた。
さて、このW刑事が私に話した處《ところ》の嬉しさの味とは何を意味するものであらうか? いや、それよりも探偵とは一|體《たい》どう云《い》ふ仕事であらうか? 云《い》ふまでもなく、
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