道を眞直ぐに降りて行つた。Kさんも、私も何か或る緊張から解放されたやうな空虚《うつろ》な心持で、默したまま靜かに歩いた。雲が切れたのか、明るい光線がぱつと私達の背後から輝いた。牧牛の群は既に影を潜めて、緑の草原の上には日差しが斜めになつてゐた。
「私にはとても想像もつかない、不思議な人達です。」と、Kさんは私の方を振り向いて云つた。
「さうです。少くとも私にはあれが人間としてのほんたうの生活だとは思へません。」と、私は考へながら云つた。
何か強い鋭い感激を與へられるやうに期待してゐた私の心は裏切られて、其處には或る物足りないやうな何物かが殘つた。その物足りなさをつき詰めて行くと、やつぱり私には彼等の生活の眞價値が疑はれた。彼等の善或は愛、彼等の沒我或は自己犧牲は貴いものであるかも知れない。然しそれはトラピストといふ限られた世界を出でないものである。云ひ換へれば彼等自身の爲めのものである。私はそれがもつと廣い、そして全人類的な意味を持つことを要求する。またよし彼等が全き人たらんことを目的としてゐるにしても、それが全人類的に何等の交渉のないものであつた時、無意味なものになつてしまふのでは
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