あるまいか。そして同時に私は彼等の偏狹な頑固《かたくな》な生活が、基督の教への中に味はれるやうな温かな親しみのある廣い人間的な味を失つてゐることを寂しく思はないではゐられない。
「彼等には果して心の動搖がないであらうか。」と、私は思つた。そしてあの廊下で遇つた日本人の若い修道士の顏附を想ひ浮べた。
「努力の生涯に絶えないやうな不安と矛盾とがやつぱり彼等にもあるに違ひない。」と、私は考へた。一致と徹底とがあつても、また人間は次の一致と徹底とを望まなければならないものだ。そして遂に滿足と云ふことを知り得ないのが、不幸な人間の運命なのではないか。彼等もそれに違ひない。
「そんならば人にはやつぱり眞の安心はないのだ。堅く掴んでゐられる信仰は生きてる間はないのだ。よしありとしてもすべてそれらは瞬間のもの假構のものに過ぎない。死が自分の眼を鎖して人間としてのあらゆる意識を消してくれる時でなければ……」自分の心が次第に暗い處へ引き摺られて行くやうな寂しさを感じながら、私は無意識に歩いてゐた。Kさんは杖を振りながら、私の二三間先を歩いてゐる。私が顏を擧げた時、丘を越えて眞青の海が見えた。
「船はまだ見
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