ら、何氣なく答へた。死に對して、そんなに冷淡なのかと云ふやうな表情がKさんの顏に浮んだ。
 私達が元の休憩室に歸つた時、机の上には食事の用意が調つてゐた。
「お疲れでしたらう。御覽の通り無骨な料理ですが、お食《あが》り下さい。」と、S氏は傍の椅子に腰を降しながら云つた。麺麭《パン》と肉やサラドの盛つた皿が備へてあつた。
「修道士はどんな食事をなさるんですか。」と、Kさんが訊ねた。
「一餐の時に一品、即ち麺麭《パン》なら麺麭、野菜なら野菜と云ふのが定めです。勿論精進です。牛乳でも脂肪を拔いて飮みます。御馳走もありませんが、これはお客の時や病人にだけ許される食物です。」S氏はいつも低い聲で云ふ。
「修道院は出來るだけ不毛荒廢の地に建てるのが主義ださうですね。」と私が口を切る。
「さうです。さう云ふ處を開墾して、その土地から得たもので自活するのが主義です。さうですね、私が此處へ來てからかれこれ二十三年になりますが……」S氏は細い眼をふせながら、屈託もなく云つた。
「二十三年ですつて……」と、Kさんはフォオクの手を休めて、驚きの面持《おももち》をする。
「あなたも修道をしておいでになるのですか
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