「いゝえ、別に修道に關したものではないのですが、此處の院長はもと考古[#底本は「好古」]學者か何かだつたやうです。」と、S氏は穩かな微笑を片頬に浮べながら云つた。
「何處の方です。」と、私は訊ねた。
「佛蘭西の人です。」
屋根裏の三階の片隅を整然と爲切つて、地層成立の地代によつて、各種の鑛石や化石や未開人種の所持品などが並べてあつた。そして、術語の説明が加へてあつた。それは少くとも彼が可成りの專門家であることを思はせた。
「お若い方ですか。」
「さうですね。それでも五十を越しておいででせう。」と、S氏は云つた。
第三紀層、白堊紀、石炭紀、Silurea 紀と地球創成の跡を究めて、遂に太古の暗黒時代に這入つた時、若き研究家であつた彼が、人生の大きな不安に捉はれて、深い懷疑に沈んだ時を私は想像した。少くとも考古學者からトラピストの生活に進むまでの彼の生涯には、何等かの思想上の Struggle があつたではないかと思はれた。
「今は病人はをりません。」と、病室の前でS氏が云つた。
「醫師がおいでになるのですか。」と、Kさんは訊ねた。
「村醫に來て貰ふのです。」と、S氏は階段を降りなが
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